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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)10076号 判決 1998年3月24日

原告

堀井亀信

ほか二名

被告

足立幸健

ほか一名

主文

一  被告らは、原告堀井亀信に対し、各自金五二二万五八一一円及びこれに対する平成八年一〇月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告堀井秀一に対し、各自金二六一万二九〇六円及びこれに対する平成八年一〇月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告松田智子に対し、各自金二六一万二九〇六円及びこれに対する平成八年一〇月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを九分し、その五を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告堀井亀信に対し、各自金一一七〇万九四八六円及びこれに対する平成八年一〇月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告堀井秀一に対し、各自金五八五万四七四三円及びこれに対する平成八年一〇月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告松田智子に対し、各自金五八五万四七四三円及びこれに対する平成八年一〇月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告足立幸健運転の普通貨物自動車(運行供用者被告山根中)が堀井晶子運転の足踏自転車に衝突して同人が死亡した事故につき、同人の相続人である原告らが被告足立幸健に対しては民法七〇九条に基づき、被告山根中に対しては自賠法三条、民法七一五条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成八年一〇月一九日午前九時三〇分頃

場所 大阪市生野区巽北四丁目一二番一七号先(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通貨物自動車(三重四六ね六九一一)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告足立幸健(以下「被告足立」という。)

右運行供用者 被告山根中(以下「被告山根」という。)

事故車両二 足踏自転車(以下「晶子車両」という。)

右運転者 堀井晶子(以下「亡晶子」という。)

態様 被告車両が晶子車両に衝突した。

2  被告山根の責任原因

(一) 自賠法三条関係

被告山根は、被告車両の運行供用者である。

(二) 民法七一五条関係

被告山根は、本件事故当時、山根化学の屋号で理容部品の製造・販売を主たる業務内容として事業を営んでいた。

被告山根は、本件事故当時、被告足立の雇用主であった。

被告足立は、本件事故の際、被告山根の事業に従事していた。

3  亡晶子の死亡及び相続

(一) 亡晶子は、本件事故により、平成八年一〇月二五日、死亡した。

(二) 亡晶子の死亡当時、原告堀井亀信(以下「原告亀信」という。)はその夫、同堀井秀一(以下「原告秀一」という。)及び同松田智子(以下「原告智子」という。)はその子であった(甲七ないし九)。

4  損害の填補

原告らは、本件事故に関し、自賠責保険から合計二一七九万二九七〇円の支払を受けた。

二  争点

1  被告足立の過失

(原告らの主張)

被告足立は、本件事故当時、無免許で被告車両を運転していた。

被告足立は、本件事故現場の交差点に進入する場合には、道路標識に従い、停止位置で一旦停止し、南北の優先道路から来る車両、歩行者等の安全を十分に確認した上で、被告車両を発進させなければならない業務上の注意義務を負っていたにもかかわらず、これらの注意義務を全て怠り、一旦停止することなく漫然と被告車両を交差点内に進入させ、晶子車両に気づかず、本件事故を惹起させたものである。

(被告らの主張)

争う。被告足立は、交差点手前にて一旦停止したが、亡晶子が譲ってくれるものと誤信して走行したところ、本件事故が発生したものである。

2  亡晶子の過失

(被告らの主張)

本件事故の態様は、争点1において述べたとおりであり、一定の過失相殺が行われるべきである。

(原告らの主張)

争う。

3  損害額

(原告らの主張)

(一) 治療費 五三万四二七〇円

(二) 文書費 六六〇〇円

(三) 入院雑費 九一〇〇円

(四) 休業損害 四万九二七〇円

(五) 逸失利益 (家事労働分) 一二〇七万六八四六円

(国民年金分) 三七八万六一七九円

(六) 入通院慰謝料 一一万九六七七円

(七) 死亡慰謝料 二五〇〇万円

(八) 葬儀費用 一五〇万円

(九) 弁護士費用 二一三万円

(被告らの主張)

不知。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1及び2について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(乙四、五)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪市生野区巽北四丁目一二番一七号先路上の交差点(以下「本件交差点」という。)であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件交差点は、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とがほぼ十字型に交差しており、信号機により交通整理は行われていない。南北道路は南向きの一方通行路であり、東西道路は東向きの一方通行路である。東西道路には、一時停止規制が行われている。東西道路を東に向けて走行してきた場合、本件交差点における前方の見通しはよいが、左右の見通しは悪い。

被告足立は、平成八年一〇月一九日午前九時三〇分頃、無免許にて被告車両を運転し、東西道路を東に向けて走行し、別紙図面<1>地点において一旦停止した後に本件交差点内に進入したところ、同図面<2>地点において南北道路を南から北に向けて走行してきた晶子車両(同図面<ア>地点)に気づいたが、進路を譲ってくれるものと思い、そのまま進行したが、同図面<3>地点で同図面<イ>地点まで来ていた晶子車両を認め、急制動をかけたが、間に合わず、同図面<×>地点で晶子車両に衝突し(右衝突時における被告車両の位置は同図面<4>地点であり、晶子車両の位置は同図面<ウ>地点である。)、同図面<5>地点に停止した。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、主として、被告足立が、本件交差点に進入するにあたり、交差道路を進行してくる車両の動静を注視し、その安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのに、右注意義務を怠ったまま漫然と進行した過失のために起きたものであると認められる。また、被告足立が無免許で運転を行ったことを考えると、被告足立の過失は重大というべきである。しかしながら、その反面において、亡晶子としても、本件交差点に進入する際には、左右の安全を十分に確認することが期待されていたというべきところ、亡晶子の左方の安全確認が不十分であったことも本件事故の一因となっていたことは否定できない。したがって、本件においては、一切の事情を斟酌し、一割の過失相殺を行うのが相当である。

二  争点3について(損害額)

1  過失相殺前の損害額

(一) 治療費 五三万四二七〇円

亡晶子は、本件事故による傷病の治療費として、五三万四二七〇円を要したと認められる(乙七、弁論の全趣旨)。

(二) 文書費 六六〇〇円

亡晶子は、文書費として、六六〇〇円を要したと認められる(乙七、弁論の全趣旨)。

(三) 入院雑費 九一〇〇円

亡晶子は、入院雑費として、九一〇〇円を要したと認められる(乙七、弁論の全趣旨)。

(四) 休業損害 四万九二七〇円

前記争いのない事実、証拠(甲二)及び弁論の全趣旨によれば、亡晶子(昭和六年七月二日生)は、本件事故当時、主婦として家事労働に従事していたこと、平成八年一〇月一九日(本件事故日当日)から同月二五日(死亡日)までの七日間、家事労働に従事することができなかったことが認められる。

女子労働者六五歳の平均給与額は、原告ら主張のとおり月額二一万八二〇〇円程度であると認められるから(当裁判所に顕著)、亡晶子の家事労働についても、右金額をもって評価するのが相当である。したがって、亡晶子の休業損害は、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 218,200×7/31=49,270(一円未満切捨て)

(五) 逸失利益

(1) 家事労働分 一〇三五万一五八二円

亡晶子は、死亡当時、六五歳であり、本件事故に遭わなければ、六五歳から八年間は家事労働を続けることができたと解される。

そして、亡晶子の年齢、女子労働者六五歳の平均給与額が月額二一万八二〇〇円程度であることにかんがみると、逸失利益算定上の基礎収入においても、月額二一万八二〇〇円とするのが相当である。そこで、亡晶子が原告亀信との二人暮らしであることにかんがみ、生活費控除率を四割として、新ホフマン式計算法により、年五分の割台による中間利息を控除して、右稼働期間内の逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 218,200×12×(1-0.4)×6.589=10,351,582(一円未満切捨て)

(2) 国民年金分 一五六万六五〇四円

亡晶子は、死亡当時、国民年金から、二か月に一回、六万三九一六円の給付を受けていたこと、本件事故に遭わなければ、平均余命に照らし、平成八年一〇月二五日(死亡日)以後二〇年間は生存していたであろうことが認められる(甲四、当裁判所に顕著な事実)。

そして、国民年金の金額が年額三八万三四九六円にとどまること(二か月に一回支給され、その一回あたりの金額は六万三九一六円である。)に国民年金のそもそもの性格を併せ考えると、亡晶子が受け取るべき国民年金のうち亡晶子の生活費として費消される部分は比較的大きな割合を占めると解すべきであるから、国民年金分については生活費控除率を七割と認めるのが相当である。そこで、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、二〇年間の逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式) 63,916×6×(1-0.7)×13.616=1,566,504(一円未満切捨て)

なお、被告らは、そもそも国民年金は逸失利益の対象にはならないと主張するが、被告らの右主張を採用することはできない。

また、被告らは、仮に国民年金が逸失利益の対象となりうるとしても、家事労働分による逸失利益を平均賃金等で算出する場合には、右家事労働分の逸失利益によって被害者の逸失利益は全体として評価され尽くしているという趣旨の主張をする。その理由として、いわゆる兼業主婦が死亡した場合、賃金センサスの方が実収入よりも高ければ、賃金センサスを基礎収入として逸失利益を算定するのが実務であり、賃金センサスと実収入のいわば二重取りは認められていないことをあげている。しかしながら、亡晶子が国民年金を受け取るからといって、その分家事労働が質的量的に低下するという関係にないことは明らかである。したがって、被告らの右主張を採用することもできない。

(六) 入通院慰謝料 一一万円

亡晶子の被った傷害の程度、その死亡に至るまでの日数等の事情を考慮すると、右慰謝料は一一万円が相当である。

(七) 死亡慰謝料 二一〇〇万円

本件事故の態様、亡晶子の生活状況その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、亡晶子の死亡慰謝料は二一〇〇万円であると認められる。

(八) 葬儀費用 一二〇万円

本件事故と相当因果関係にある葬儀費用としては、一二〇万円をもって相当と認める。

2  過失相殺後の金額 三一三四万四五九三円

以上掲げた損害額の合計は、三四八二万七三二六円であるところ、前記一の次第でその一割を控除すると、三一三四万四五九三円(一円未満切捨て)となる。

3  損害の填補分を控除後の金額 九五五万一六二三円

原告らは、本件事故に関し、自賠責保険から合計二一七九万二九七〇円の支払を受けたから(前記争いのない事実)、これを過失相殺後の金額三一三四万四五九三円から控除すると、残額は九五五万一六二三円となる。

4  弁護士費用 九〇万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告らの弁護士費用は合計九〇万円をもって相当と認める。

5  まとめ

以上によれば、損害賠償請求権(元本)の合計は一〇四五万一六二三円となり、これを原告亀信が二分の一の割台(五二二万五八一一円)、同秀一及び同智子が各四分の一の割合(各二六一万二九〇六円)で有することになる。

三  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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